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宇都宮地方裁判所栃木支部 昭和38年(わ)114号 決定 1964年3月05日

被告人 H(昭一九・三・三一生)

B (昭二二・三・二五生)

主文

本件を宇都宮家庭裁判所栃木支部に移送する。

理由

(犯罪事実)

被告人両名は昭和三八年九月○○日連れ立つて東京都内に遊びに行き、所持金が残り少なくなるに及んで、タクシーの運転手に暴行脅迫を加え反抗を抑圧して金員を奪取しかつ乗車料金の支払を免れるいわゆる自動車強盗を共謀し、最後の所持金をはたいて飲食した後、同月○△日午後一〇時三〇分頃東京都杉並区下高井戸地内より長○守○(当三三年)の運転するタクシーに乗車し、栃木県小山市方面に向つたが、途中同運転手が車庫に寄つて既収料金を置いて来たのを見て、強盗の計画を中止すべきかどうか手まねで連絡しあつたが互の意思が通ぜず、またどのみち乗車料金の支払もできないのでいまさら中止の決断もつきかね、結局同運転手をして栃木県下都賀郡○○町大字○○地内まで運転させて翌△△日午後二時三〇分頃、同所において停車を命じ、車内においていきなり被告人Bがネクタイ二本を結び合わせたものを同運転手の頸部に引きかけて強く絞めつけ、被告人Hが所携の小刀で左胸部を一回突き刺し、よつて同運転手に二ヶ月以上の加療を要する左胸部刺創、頸部皮下出血等の傷害を負わせ、人事不省の状態に陥れてその場を逃走し、乗車料金約四、八四〇円の支払を免れて財産上不法の利益を得たものである。

(証拠)<省略>

(移送の理由)

被告人等の判示行為は刑法第二四〇条前段、第六〇条に該当する。

そこで、被告人等に対する処遇について考えるに、被告人Bは雇主と些細なことから口論の末勤務先を退職し、鬼怒川温泉方面の飲食店で働こうと考えて被告人Hを誘つたところ、同被告人も直ちにこれに応じて無断退職し、同被告人の旧勤務先に置いてあつた荷物を取りに行くつもりで連れ立つて東京都内に赴いたが右旧勤務先には立寄らず都内を遊び廻り、所持金を使いはたすに及んで先ず恐喝を計画し、それが成功しそうもないと考えるやいとも安易に本件自動車強盗を計画、敢行したので、その無軌道無分別ぶりにはただあきれるほかはなく、近時この種事犯が頻発していることをも考えあわせれば、刑事手続により厳罰に処すべきものとする見解も決して根拠のないことではない。しかしながら、被告人等はいずれも少年であり、特に被告人Bは一六歳の若年で従来前科検挙歴等なく、被告人Hも間もなく成年に達するとはいえ、軽微な窃盗の犯歴一回を有するに過ぎず、本件の動機における前記のような無分別ぶりも見方を変えればまさに少年犯罪の特徴とも言い得るのであつて、被告人等が犯罪性の固着した矯正困難な者であるとは必ずしも思われずむしろその決意いかんによつては更生は充分に可能であると考えられるところ被告人等はいずれも自首しており、その後の身柄拘束、取調、公判審理の過程を通じて罪の重大さを充分認識し反省していると認められること、弁護人、近親者等の尽力により不充分ながら被害弁償もなされており、被害者においても被告人等に対する処罰の軽重もさることながらその将来の更生に深い関心を寄せる心境にあると認められること、他面事案の重大性にかんがみると叙上のような情状をいかに斟酌して自首及び酌量減軽をするとしても到底刑の執行を猶予するのが相当とは考えられないことその他諸般の事情を綜合すると、今直ちに被告人等に実刑を課し前科者の烙印を押す結果を来すよりは、少年法第五五条を適用して事件を家庭裁判所に移送し、強力な保護処分による保護善導を期することが最も適切な措置であると思料される。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西口権四郎 裁判官 多賀谷雄一 裁判官 藤井登葵夫)

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